起・承・転・結とボディー

音声ガイドの原稿を納品して、ディレクターから”流れがない”というフィードバックを受けることがたくさんあると思います。

スルスル読めれば流れはできているのか?

じゃあ、とりあえず接続詞をたくさん入れてみるか?

それとも逆に箇条書きにしてみる…?

疑問は尽きないのではないでしょうか。

今回は、”流れ”について解説したいと思います。

「起・承・転・結」からの「流れ」

そもそも”流れ”とは何でしょうか?

定義は、<物語の構成を正確に把握したうえで、必要な要素を盛り込まれた文章が、淀みなく読めるよう並んでいること>です。

どんどん掘り下げていきます。”物語の構成とは?

”物語には必ず「起・承・転・結」がある”と聞いたことがあると思いますが、上で言う構成とは、「起・承・転・結」のことを指しているのです。

というわけで、流れを作るためには、まず起・承・転・結をつかむ、ということになります。

さて、本題に入る前に「起・承・転・結」についておさえておきましょう。
ざっくりまとめると次のとおりです。

起…物語が始まる
承…物語が進展する
転…トラブルなどが起こる
結…トラブルなどが解決して物語が終わる

”起”の部分では、登場人物や事件などのあらましが描かれたり、物語の核となるストーリーが進行したりします。音声ガイドでは、各登場人物などの紹介をする、一番分厚い部分と言えるでしょう。

”承”は、前の”起”で起きた物事が進展するパートです。新しい登場人物が出てきたり、”起”の部分で語られることがなかった事実関係などが明らかになったりします。

次に”転”。物語がグッと加速して、新たな物事や事実などが出てくるところです。その点を詳しく解説したり、登場人物の心情表現などに焦点を当てた描写が求められます。このパートでは、”起”や”承”で説明したことは省きガイドの枚数を徐々に少なくします。視聴者の意識を作品に集中させる工夫をします。

最後の”結”は、今までの伏線を回収するパート。”起・承・転”で出てきた物事や表情などの描写を受け継ぐ必要も出てきます。音声ガイドでもしっかりこの構造を読み取って、物語に沿った伏線を張っておく必要があります。

こうした起・承・転・結をしっかり把握しておくことで、どこでどの情報を出すかというタイミング、さらに出さなくてもいい情報を正確に取捨選択することができるようになるのです。

…と、ここまで結構長く誌面を使って書いてきましたが、あくまでこれは構成を把握するという段階を解説しただけで、流れを作るという本チャンの話題の序章にすぎません。
いよいよ核心に入ります。

ボディ理論

「起・承・転・結」、それぞれのパートは”ボディー”という細かいパーツでできている―。

これは、私がドキュメンタリー番組の日本語版制作で会ったプロデューサーから教わった概念です。

たとえば旅番組を例にとって、”起”に当たる番組オープニングで考えてみましょう。

まずはナレーターによる当該番組の趣旨紹介があり、その後にナビゲーターの自己紹介、土地の説明など、ゲストがいればその紹介、そこには前回までの逸話などが挟まれるかもしれません。こうした細かいエピソードなどが終わって、ようやく、今回の旅についての説明が始まるわけです。図にすると以下のような感じです。

●番組オープニング

―ボディ① ナレーターによる番組趣旨紹介
 ―ボディ② ナビゲーター登場
  ―ボディ③ ゲスト紹介
   ―ボディ④ ゲストとのトーク
    ―ボディ⑤ 旅スタート

ほかにもたとえば、こんな映画では…
●映画オープニング
―ボディ① 事件に巻き込まれる被害者
 ―ボディ② 燃え尽き症候群の刑事(主役1)の人物紹介
  ―ボディ③ 家庭がある相棒の刑事(主役2)も同様に紹介
   ―ボディ④ 2人の刑事の出会いエピソード
    ―ボディ⑤ 冒頭の事件の担当になる

このような流れで細かいボディーで「起」が描かれていき、次の「承」に物語が引き継がれていきます。

つまり、起・承・転・結は、それぞれが無数の細かいエピソード=ボディから成り立ち、さらにそのボディにもそれぞれ起・承・転・結があるのです。

ボディを制する者は物語の核を制す

この細かいボディーを掴むことこそ、音声ガイドの流れを生み、分かりやすい日本語で情景描写をしていくコツなのです。まず、当該パートが起・承・転・結のどこの部分に当たるのかを把握すると、そこで説明しなくてはならない大まかな情報をつかむことができます。

オープニングであれば番組の説明をする部分ですから、ここでは重点的にナビゲーターの特徴や番組のセットなどを説明する必要がある、という具合です。

次に、それぞれを構成するボディ構造を分析し、そのボディーのテーマを絞ると情報の取捨選択の方向性が明確になってきます。
上の映画の例で言えば、②では「燃え尽き症候群の刑事(主役1)の人物紹介」をしたいのですから、刑事の特徴にフォーカスすると分かりやすくなるでしょう。

”無精ひげ”だったり、”よれよれのスーツ”だったり、”真っ赤に充血した目”だったり… キャラのイメージを正確に伝えることができるものを探せばよいのです。

反対に③は「家庭がある相棒の刑事(主役2)」の紹介ですので、ここでは”家族の存在”や、”家族に手を振る主人公”という描写が中心になるはずです。

ボディは”核”と言い換えることもできます。核とは、つまりテーマです。起承転結もテーマですから、ボディは”子テーマ”と言うべきかもしれませんね。

いずれにせよ、親テーマを構成する子テーマ(ボディ)を見抜いて物語を細分化することによって、カバーする範囲を絞り、押さえる情報を明確にすることができるのです。いわゆる「選択と集中」ですね。要らない情報を排除することができると言い換えることもできるでしょう。

120分の映画を起・承・転・結の4パートに分けるとすると、単純に1つのパートは30分という計算になります。30分の尺の中からテーマ(=核)を見つけ、そこにフォーカスして情報を取捨選択していく。気が遠くなる話ですよね…。

対してボディ理論に基づいたテーマ探しでは、長くて1~2分程度のまとまりの中での話ですので、比較的容易かつ正確に構成を探り出すことができます。

もともと脚本というのは、このボディ理論に基づいて作られています。
ですから、このボディ構造を正確に掴んでさえいれえば、脚本家や映像製作者が意図したとおりにガイドも流れていくはずです。

ガイドを書くときは、どうしても、一点集中して遠くに目をやるということを忘れがちです。

冒頭で書いたように、流れを出すために接続詞をたくさん入れて無理やり文章をつなげたり、体言止めを使ってリズムを出したりしてしても、それは小手先の対処療法にしかなりません。

もちろん、流麗な日本語表現は大事です。しかし、本質を忘れて施した策は必ずボロが出ます。うまい原稿を書きたければ、まずは視点を遠くにおいて、まずは全体像の把握、そして各パーツを構成するボディを見つけ出すこと。これを強く意識してください。

今回は以上です。では。

スタジオカナーレ代表 浅野一郎