音声ガイド制作にかかわるプロフェッショナルたち⑤ 【ミキサー編】

モノ作りの現場

音声ガイドを制作するうえで欠かせないスタジオ収録。その技術的な面をバックアップしてくれるのが、スタジオミキサーの存在です。

私は個人的にスタジオでの収録時間が制作工程の中でもっとも好きです。

ここで初めて、原稿を作ったディスクライバー、原稿を読む声優/ナレーター、そして収録の技術面をコントロールするミキサーが一同に会し、一体感と緊張感の中で作品を作り上げていく、次々に命が吹き込まれていくのです。

ミキサーってどんな人?

ちなみにスタジオによって違いはありますが、ミキサーはメインとアシスタントの2名構成というパターンが多いです。なお、スタジオカナーレでは、仕事をくださったお客様のインハウス・スタジオを使わせていただくことが多く、この場合、ミキサーは発注元の会社の社員です。対して、制作を外注しているケースもあり、この場合ミキサーは音響制作会社などからの派遣というパターンもあります。

なお、人によってかなり差があるとは思いますが、ミキサーになるには技術系の専門知識を得られるような学校に行き、その後、制作会社などで経験を積んだうえで少しずつ現場に慣れていくという道筋が一般的なようです。

ミキサーの仕事をしている人は、比較的横のつながりで動いている方が多い印象を受けます。ですから、ひょんな話から、実は前にお会いしていたということが分かるときもあり、悪いことはできないな…と思う次第です。

いずれにしろ、ミキサーは音響全般に関するプロフェッショナルです。声優/ナレーターが読んだ音声データを加工・編集するだけでなく、声の強弱やトーン、時には演出に関するアドバイスをくれることもあります。

たとえば、本編前の唄終わりでは、ジャジャジャン♪という音が終わる直前にガイドを終わらせたほうが、ずっとインパクトがあるよといった具合です。もちろん私もプロのディレクター・演出家ですので、そのあたりは分かってはいるのですが、アニメや映画本編で制作にかかわった経験があるわけではないので、本編の音の録り方などをベースにアドバイスをいただくと本当に参考になります。やはり実地で培った経験ほど重いものはありません。

また、やはり音の専門家ですので、声優/ナレーターの声がほんのちょっとかすれたりうわずったりしただけでも、すぐに気づいてくれるのも心強いですね。私も相当細かく聴いているつもりですが、やはりその道のプロにはかなわないなと思わされることもしばしばです。

ツール

なお、私がディレクターを始めた18年前でもその傾向は強かったのですが、今やすべてがデジタル処理になりました。主に使われているのは米Avid Technology社のPro Tools(プロツールズ)というソフトウェア。

音源データはすべてPCに保存され、“音のコピー&ペースト”は当たり前、時には一音ずつ音を拾ってきてあらたなワードを作ってしまうという離れ業をしてのけるミキサーもいるほどです。ただ、デジタル処理にも限界はあり、たとえば尻上がりで読んだ単語を尻下がりにしても、やはり違和感が残ります。いくら技術の助けがあるとはいえ、収録の時に気を抜くことはできません。

さて、音声ガイド制作にかかわるプロフェッショナルについて5回にわたってお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか?

私は音声ガイド制作をオーケストラのように考えることがあります。(少々口幅ったいようですが、)ディレクターは指揮者、ディスクライバーは作詞家、声優/ナレーターはソロ声楽家、そしてミキサーはバックヤードの技術者。テレビやモニターの前の「Bravo!」の声を想像しながら、いつも全員で一生懸命演奏しているのです。

今回は以上です。では。

スタジオカナーレ代表 浅野一郎