音声ガイド制作にかかわるプロフェッショナルたち④ 【ディレクター編 後編】

ディレクター編、後編です。

スタジオ収録

あらかじめブッキングしておいた日時にスタジオに行き、30分くらいかけてスタジオミキサー、声優/ナレーターを交えて打ち合わせをします。主に素材全体の筋の再確認をしながら演出方針についてのディスカッションをしたり、特徴的なアクセントの確認をしたりするというものから、お昼ご飯の確認や手配など、気分良く収録に臨んでもらえるよう段取りのすべてにおいて気を配ります。

そして収録本番。

収録中、ディレクターは声優/ナレーターが読み間違いをしていないか原稿に目をやりつつ、尺に収まっているか、アクセントは正しいか、演出方針に沿ったトーンやマナーを保っているかなど、目だけでなく耳も総動員してチェックしています。

こうして録り終えたものを、後日、またはその日の収録が終わった後、念のためもう一度全編を通して聴き微調整をおこないます。これをプレビューと言います。

音声ガイドは晴眼者が得ている情報を同じタイミングで見えない・見えづらい人に届けるというのが大原則です。視聴者の対象が画から情報を得ていないからといって、当該ガイドが当該シーンから大きく逸れてしまう(カットこぼれなど)というのはマナー違反です。ただ、さすがに収録時は1秒の30ぶんの1のタイミングには気づきようがありませんので、収録後にプレビューの時間を設け、ガイドを入れる位置をフレーム単位で上げたり下げたりするのです。

また、プレビュー時、万一、チェックからすり抜けてしまった間違いなどに気づいた場合は、後日リテイク(録り直し)をします。ただ、原則、リテイクはスタジオや声優/ナレーター、ミキサーをもう一度ブッキングすることになりますので、ナシが原則。収録時の集中力が問われます。

次はディレクターの最後の作業、「最終稿の作成」です。

最終稿の作成

最終稿とは、収録稿から変更が出た個所などを反映させて、最終的にクライアントに納品する原稿のこと。スタジオ収録では推敲を繰り返した原稿を読んでもらっているわけですから、原則、原稿の手直しは発生しません。しかし、どうしてもプロの声優/ナレーターに読んでいただくと、違う表現にしたほうがベターな箇所などが見つかることもあり、その場合は、スタジオで原稿を変えることがあります。現場での原稿内容変更はディレクターの責任で行うものですから、基本的に最終稿はディレクターが作成します。

少し長くなりましたが、ディレクターの作業は以上です。

ディレクターになるには?

最後に、ディレクターを担う人の種類について。大きくわけて2種類の方がいます。

まず、おそらくもっとも多いのが制作会社のスタッフが担当するというケース。もう一つはディスクライバーとして経験を多く積んでいる方が、制作会社などからそろそろディレクターとして現場に立ってみましょうか、と打診を受けるケースでしょう。前者の場合は仕事ですからできて当然として、後者の、ディスクライバーがディレクターを兼ねるという場合は、キャリアアップにもなるうえに、書き手がディレクターマインドを得ることができる絶好のチャンスですので、打診があった場合は積極的にトライするべきです。

弊社の場合ですと、見込みがある方には、目安としてシリーズ1作品(12本程度)でディスクライバーの経験をしてもらってから、次の作品でディレクター見習いとしてアシスタントのようなことをしていただいたのち、3作品目あたりから実際に現場に立ってもらうというのが一般的です。

ちなみに、ディスクライバーについてはPCとネットインフラさえあればどこでもできるのですが、さすがにディレクターになると収録に行かねばなりませんので、必然的に東京近郊にお住まいになっていることが条件になることが多いです。

ディレクター編、いかがだったでしょうか?

ディレクターの仕事は多岐に渡ることが分かっていただけたかと思います。

ディレクターは収録現場で指示をしている人というイメージが強いかもしれません。

しかし、繰り返しになりますが、実は大事なことのほとんどが収録前に終わっているのです。つまり、いかに入念に準備しておくかでディレクターの仕事の9割が決まる、つまり音声ガイドの質が決まると言っても過言ではありません。

今回は以上です。では。

スタジオカナーレ代表 浅野一郎