スタジオカナーレとは

概要

スタジオカナーレは視覚障害者向けの音声ガイドを専門で作っている制作会社です。

ここで代表を務める私の経歴は次のとおりです。

24歳のとき(いろいろ事情があって社会に出るのが普通の方よりも多少遅いです)、建設関連の会社で営業マンを5年弱経験したのち、社会人キャリアの大部分を占める、映像翻訳スクールを運営する会社に就職。そこで、退職までのおよそ18年、主に翻訳ディレクター/コーディネーター/講師として過ごしました。

映像翻訳ディレクター

およそ18年のキャリアのうち、約12年は英語(もしくはほかの外国語)で制作された映像コンテンツの日本語吹き替え・字幕版制作業務に携わってきました。

映像コンテンツのジャンルは多岐に渡り、映画やドラマはじめ、リアリティショーもあればドキュメンタリー、アニメなどなど本当にたくさんの種類の素材に触れていたのですが、ほかにも美術館・博物館で流れる映像や、企業プロモーションのためのブランディング動画、IR動画、大学の講義用ビデオなどのコンテンツもあり、どこにいても映像が身近にあることを毎日実感していました。

映像バリアフリーとの出会い

そして、2012年あたりから2018年までのおよそ6年は、映像コンテンツをバリアフリー化する、つまり聴こえない・聴こえづらいという方のためにバリアフリー字幕を制作したり、見えない・見えづらいという方のために音声ガイドを制作したりする事業部でチーフ・ディレクターを務めました。

2006年に国連総会で「障害者権利条約」が全会一致で採択され、2014年、日本は同条約の批准国となるわけですが、2012年当時は、総務省が策定した「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」に伴って、地上波・BS・CS各局が映像バリアフリーに本腰を入れだした年でした。

特に聴覚障害者向けのバリアフリー字幕については2017年までに同省が定める付与推奨時間帯に限り“100%の付与を目指す”という努力目標が課せられ、放送事業者各社はちょっとした恐慌状態に陥っていたころです。

そんな中、お世話になっていたスポーツネットワーク局のプロデューサーからお引き合いをいただき、本格的にBS局での字幕制作を手掛けるようになったことで、私の映像バリアフリー業界でのキャリアが始まり、今に至ります。

この話をすると、“仕事内容がガラッと変わりましたね”と、よく言われます。

映像のバリアを取り払う

たしかに、映像バリアフリーという仕事には翻訳というプロセスがまったくないので、最初はこう思うのも無理はありません。しかし、元になる(インプット)が英語などの外国語なのか日本語なのかの違いだけで、実は核となる部分はまったく同じなのです。

  • 翻訳

異なる言語を使う人と人の間の(言語の)バリアを取り除く

  • 映像バリアフリー

異なるコミュニケーション手段を持つ人と人の間の(コミュニケーションの)バリアを取り除く

そして、両者ともに<不特定多数の視聴者が、コンテンツ制作者の意図を正確に汲みとり感動を共有する>という共通のゴールを持っています。たまたま「言語」というワードが「コミュニケーション」に変わっただけ、というわけです。

翻訳ディレクターをやっていた当時、私は、「映像コンテンツはすべてエンターテインメントである」というもの。

映画やドラマは言うまでもありませんが、会社のIR動画であろうが、”何かを伝えたい”という制作者の気持ちはすべてエンタメ要素を持っています。

翻訳者やディレクターはそれを正確に伝えるために、英語などの外国語を単に日本語に置き換えるのではなく、そこに込められた制作者の意図を正確にくみ取り、観る側の期待や文化観などにしっかり刺さるようなワードチョイスや文章表現で、代わりに情報を届ける―。

目指すべき音声ガイドの形

スタジオカナーレで制作する音声ガイドでも、その考え方は変わりません。

見える人と見えない人が同じ温度感、同じタイミングで笑ったり泣いたりできること。それが基本の考え方です。すべてはその考え方を実現するために、原稿の内容や、声優/ナレーターへの演出が決まります。

私が翻訳の世界に足を踏み入れたのは、小学生の頃に観た、「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」という映画がきっかけです。次から次に災難を乗り越える主人公の活躍が軽快な音楽に乗って描かれる、これぞ映画!的な展開に心が躍り、将来は映画に関わる仕事がしたいと心に決めました。
1本の映画が私の将来を決めた瞬間でした。

映画だけでなく、すべての映像コンテンツには人の心を動かす力があります。

至るところにある素晴らしい贈り物を受け取る機会は、すべての人が平等に享受すべきです。

見えない・見えづらいという理由だけで、知らないうちに、その機会を喪失することがあってはなりません。

音声ガイド制作という仕事を通じて、1本でも多くの映像コンテンツを1人でも多くの方に届けるお手伝いができたらと思っています。

今回は以上です。では。

スタジオカナーレ代表 浅野一郎