音声ガイド制作にかかわるプロフェッショナルたち② 【ディスクライバー編 後編】
私は、音声ガイドディスクライバーに求められるスキルというのは後天的なものであると考えています。つまり、ビルドアップしようと思えば、いくらでもできるということです。
ディスクライバーになりたいと思ったら、次の5点について考えてみてください。
① 映画やドラマなどの映像コンテンツを好きになる
ディスクライバー志望者でたまにいらっしゃるのですが、”映画はあまり観ません”という方…
じゃあ、ドキュメンタリーなら観るのかな?とさらに質問すると、”いいえ、映像コンテンツ自体にあまり興味がなくて”という回答に唖然とすることがあります。
ディスクライバーは仕事柄、何十回となく映像を繰り返し観ることになりますので、映像をあまり観ないという方には厳しい仕事かもしれないですね。
映画などの芸術作品に共感できる力や感受性、その作品を作った人の気持ちや観る側の気持ちを推し量る想像力が欠かせません。好きこそものの~です。
② 毎日、メディアに触れる
仕事などから帰って寝るまでに、あなたは何をしますか?
ご飯を食べながら晩酌、テレビを観てお風呂に入って… 人によってライフスタイルは違うと思いますが、日々のサイクルに一つだけ「映画を観る」というアクションを足しましょう。もちろんテレビドラマでもDVDでもNetflix(ネットフリックス)でもAmazonプライムでもHuluでもなんでも構いません。
もちろん、それが音声ガイド付きの作品であれば、なおのことGoodです。
1日1本、何かのメディアに触れる。それが5分であろうと10分あろうといいんです。
もちろん本のような活字メディアでも、語彙が増えるというメリットがありおススメではあるのですが、音声ガイドは映像コンテンツを扱う仕事ですので、映像のほうが望ましいです。本はプラスアルファと考えてください。
毎日ちょっとずつでいいので映像メディアに触れる機会を増やすこと。そのうちきっと好きなコンテンツが見つかり自然と興味の幅が広がります。こうした日々の努力を楽しみながらできる方であれば、きっといいディスクライバーになれると思います。
③ 語彙力アップを図る
なかなか語彙力が上がらなくて… という悩みをよく聞きます。
音声ガイドを制作しているときに私もしょっちゅう陥るのが、表現の幅という問題。
たとえば、登場人物の怒りの心情を描きたいというケース。ちなみに「誰々が怒っている」というガイドは書きません。音声ガイドというのは、客観的に情景描写をすることが使命ですから、できるだけ直接的な表現は避けます。
ゆえに、この場合であれば「眉をしかめて」とか、「口をヘの字に曲げて」とか、「額に青筋を浮かべて」などなど、あの手この手で描写をするのですが、そのうちレパートリーが枯渇してきて何回も同じ表現を使っていることにふと気づくことがあります。
「見る」や「分かる」なども同じく、なかなかの難敵です。
映像コンテンツでは、基本的にいつも誰かが何かを見ていますし、サスペンスでは誰かが何かに気づくことも多いでしょう。そんなとき、主観的な表現を避けるという意味でも、多彩な表現が必要になるのです。
そんなとき、私が使うのは表現レパートリー集。これは自分以外の方が制作した音声ガイドや小説、ほかのいろいろなメディアで見かけて、いいなと思った形容詞や副詞、その他さまざまな表現を拾って書きためた自分だけのノート(語彙集)です。そのときは“いいね!”と思っていても、人はすぐに忘れてしまうものですから、記憶に新しいうちにまとめておくのがおススメです。語彙集が充実してくるだけでも単純に楽しいですよ。
④ アプリなどの知識を強化する
さて前述の語彙集ですが、手書きでももちろんいいのですが、目当ての言葉がなかなか見つからなかったり、見つかったとしても、大変な手間がかかったりするものです。
というわけで、私はエクセルにまとめるようにしています。こうしておけば検索機能も使えますし、シチュエーションや顔の部位といったふうにジャンル分けしておけば、さらに効率的です。テクノロジーの力を借りてスキルアップできるのであれば使わない手はありません。
ちなみに、私は読書にはKindleを使っているのですが、気になった表現などが出てきたらマークアップしておきます。Wi-Fi環境に入るとKindleのマークアップが同期されるのでPCで確認・編集することにしています。
余談ですが、私は時代劇が好きでよく読みます。その中で“ほとほと”という表現が気に入っています。”ほとほと困ったものだ…”などの“ほとほと”ではなく、「ほとほとと戸を叩く音にハッと我に返った」のように使います。戸などを叩くときの擬音ですね。ただ音声ガイドでは、わざわざ聞こえている音に対してガイドを付けるということはしませんので、使う機会がないかもしれませんが、語彙集にはもちろん収蔵済みです。
スマホのメモ帳もよく使います。電車に乗っているときでも吊り広告で秀逸な表現があれば、それをすぐにメモするという具合。もちろん、Evernoteのようなメモアプリでもよいと思います。こうしたアプリなどを使えば執筆力が上がるわけではありませんが、少しでも情報収集などの役に立つのであれば使わない手はありませんよね。
こうしたガジェット系の知識も役立ちますよ。
⑤ 常に自分の知識や思考を疑う
音声ガイドは不特定多数のリスナーがいるメディアです。
シーン1つをとっても捉え方は十人十色でしょう。自分はこう思うけど、ほかの人が見たらどう思うだろうかと一歩立ち止まって考えることができたり、どうしても不安であれば他人に意見を聞いたりするなど柔軟な姿勢を持っていることも大事です。
また、自分で思っている以上に日本語を間違えて解釈していることが多いものです。たとえば”やおら”という言葉。”突然に、急に”と思っている方、いませんか? それ、間違いです。正しくは”ゆっくり落ち着いて動作を始める様子”を表す副詞。
放送であろうと配信であろうと、一度世の中に出してしまったものは修正がききません。大げさでも何でもなく、自分の語彙を一つ一つ辞書でチェックするくらいの慎重さが求められます。
誤解なきよう念のため。自分の知識を疑うとスキルアップすると言いたいわけではありません。そうしていろいろなことを調べることで、おのずと知識が増え語彙力が強化されることにつながる、ということです。
いかがでしたか? 長々といろいろなことを書きましたが、大枚をはたいてスクールなどに通わないと身に着かないこと、どう頑張っても達成できなそうなことなどなかったのではないかと思います。
簡単なこととは言いませんが、日頃、普通にやっていることを、ほんの少しアップグレードできる心構えがあれば、少なくとも初めの一歩を踏み出すことはできるのです。
たまに、私、ディスクライバーになれますかね?と聞かれることがあるのですが、いつも“分かりません”と答えています。
ディスクライバーはなれるかなれないかではなく、やりたいかやりたくないかだけです。
大事なのは何かを伝えたいという気持ちがあるかということ。
それがあれば、まずは第一関門突破と言って差し支えないのです。細かい方法論はやりながら覚えていけばいいのです。
なりたいと思った日が吉日です。頑張ってください。
次回はディレクター編です。では。
スタジオカナーレ代表 浅野一郎
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