ニュータイプ・ディスクライバー

ディスクライバーの仕事

音声ガイドの制作にあたって、ディスクライバーの役割は基本的に脚本ガイド原稿の作成、つまり原稿を完成させることです。

>>ディスクライバーとは①

もちろん、それですべて終わりというわけではありません。収録に立ち会って、自分の原稿がどういう読まれ方をして製品になっていくかを確認するというのも仕事です。

ここで念のため補足しておきます。前述のとおり、ディスクライバーは原稿を書くのが仕事ですので、収録への立ち合いが必須というわけではありません。事実、スタジオカナーレで仕事をお願いしている方にも東京以外にお住いの方がたくさんおり、そうした方はとてもではないですが収録のたびに高い交通費(ときには飛行機の方も)をねん出することは難しいでしょう。収録立ち合いはあくまで自由参加と考えてもらって構いません。

しかし、収録というのは、単に声優/ナレーターの声を録音するだけの工程ではありません。

自分の書いた原稿にプロの読み手が魂を吹き込む、という大事な作業です。原稿はあくまで2次元の世界ですが、そこに奥行きを描いていくのが声優/ナレーターの仕事です。つまり、自分の引いた設計図が形になる段階です。実際の現場を見ている方とそうでない方では、次の原稿作成に大きな差が生まれます。

たとえば、ここで一拍置くと内容がよりよく伝わる、ここで読み方を速くすると緊迫感が増すなど、読み方ひとつで驚くほど内容のニュアンスが変わるものです。また、一拍置いたり読み方を速くしたりするということは、ほんの1文字程度の差ではあるとは思いますが、文字数にも影響を及ぼします。声優/ナレーターの読みやすい言葉遣いというものも学ぶことができるでしょう。

ディレクターは常に完成形を頭に思い描きながら監修をしています。つまり、常に設計図を実際に形にしたときのイメージがあるということです。収録はその過程を体験できる絶好の機会というわけです。

そうしたことから、不可能でない限りディスクライバーは収録に立ち会うべきです。

書けて読めるディスクライバー

て、前置きが少し長くなりましたが、今回はニュータイプ・ディスクライバーと題して、“書けて読めるディスクライバー”についてです。ディスクライバーは書くのが仕事ではありますが、文章表現力とあわせてナレーションのスキルを持っていたとしたらどうでしょうか? 自分で設計図を引ける大工さんをイメージしてください。

つまり、自分で書いた音声ガイド脚本原稿を、自分で読むことができるディスクライバーということです。

メリットは2つあります。

①正確に完成形をイメージできる

自分で書いた原稿を自分で読むわけですから、前置きで触れたような“どんな最終形にしたいか”を前もって知っているということになります。

私はディスクライバーには原稿確認の際は、必ず“本息で読んでくること”とアドバイスしています。これは声優/ナレーターが現場で読むように、“本番を想定して大きな声で”ということです。ただ、これはなかなか難しいですね。作業が深夜に及ぶとき、家族がいたり壁の薄いマンションだったりすると気が引けてしまうこともあるでしょう。結局、入稿された初稿を実際にディレクターが読んでみると、尺の過不足が出てくることもしばしばです。

しかしディスクライバー兼声優/ナレーターであれば、たとえ小さな声だったとしても、実際の収録時の読みスピードやトーン・マナーなどがしっかり頭に入っていますので、尺合わせが正確になり、感情表現などの演出面(芝居)でも、すでに厚みの増した原稿を作成することができるのです。

当然のことながら、発注側も直しの少ない原稿のほうが助かりますから、最終形のイメージができている原稿を書くことができるディスクライバーのほうが継続的な発注を期待できる確率はグッと高くなるでしょう。

収入がより安定する

書けて読めれば、原稿執筆の分とナレーションの分の報酬を獲得できます。非常に単純な理屈です。

どうすればなれるのか?

ご自分に“読み/書き”どちらのスキルがすでにあるかによって方法が2種類あります。

まず“読めて書ける”タイプ。役者やナレーターとしての経験をお持ちの方がディスクライバーを目指すパターンですが、このタイプの方はもともと読むスキルはお持ちですので、脚本原稿執筆スキルを学ぶ必要があります。

こちらでも触れていますので触れていますので参考にしてください。

次に“書けて読めるタイプ”。こちらの場合、読むスキルが別途必要になりますので、ナレーション専門学校やアナウンサートレーニング(通称:アナトレ)などに通うといいでしょう。

もちろん、“音声ガイド原稿だけに専念している“という方はいらっしゃいますが、割合的に映画などの字幕・吹き替え翻訳やバリアフリー字幕制作との兼務という方がとても多いのが現状です。

“書けて読める“にしても”読めて書ける“にしても一朝一夕でスキルが身に着くわけではありませんので言うは易し~ではありますが、今後、音声ガイド制作はもっとメジャーな分野になり、目指す方も増えてくるでしょう。

そのときに、頭一つ分だけでも差別化を図ることができれば有利に運ぶことは間違いありません。

今後、“書けて読める”だけでなく、“書けて読めてディレクションができて”、さらにミキシングができてというとんでもないディスクライバーがでてくるかもしれません。

今回は以上です。では。

スタジオカナーレ代表 浅野一郎