音声ガイド制作にかかわるプロフェッショナルたち① 【ディスクライバー編 前編】
さて、今回から5回連続で前回記事にて取り上げたプロフェッショナルたちについて触れていきたいと思います。まず1回目の今回は「ディスクライバー」から。
概要
音声ガイドの脚本原稿を執筆する人のことで、英語の”Describe”(描写する)に”er”をつけて ~する人 とした単語、つまり”描写する人”という意味です。
音声ガイドでは人物や風景の描写をすることから「描写する人=ディスクライバー(Describer)」という呼び方をするわけです。
ちなみに海外ではDescriberという言い方はあまり浸透していないようで、Audio Describer、Writer、Writer of audio descriptionあたりが一般的なようです。
原稿執筆
さて音声ガイド脚本原稿を執筆するというのは、音声ガイドを制作するうえでもっとも重要な仕事と言って差し支えないでしょう。もちろんナレーター/声優やスタジオミキサー、ディレクターの存在は欠かせないものではありますが、やはり元となる原稿がなければ話が始まりません。
その原稿を制作するには、人によって違いはありますが、平均して「1日 10分」と言われています。これは、1日に8時間程度作業をして映像尺10分ぶんの音声ガイドを制作することができる、ということです。100分程度の映画の音声ガイドを制作するためには、単純計算で10日かかるということになります。
これは実際に原稿を書いてみると分かりますが、10分/1日というのは結構なスピード。テレビの仕事で、OA(オンエア、つまり放送日)直前にならないと完パケ(完全パッケージの略で、編集などがすべて済んだ状態の映像のこと)が上がってこないということもあり、その場合は、30分の素材をほぼ一晩で仕上げるということも。
さらに、ここからディレクターのチェックバックを反映したり、モニター検討会で出たレビューを参考にリライトしたりする時間を加味すると、この時間はもっと増えていきます。これが速いのか遅いのかということになると、考え方は人によりけりだと思いますので一概には言えませんが、膨大な時間がかかるということは間違いありません。
ディスクライバーってどんな人がやっているの?
現在、比較的多いのがNPOや視覚障害者サポート団体での仕事(有償/無償ボランティア含む)でしょう。普段は会社勤めをしている方、家で育児の傍ら取り組んでいる方など、背景もキャリアも様々な方たちが活躍しています。
ディスクライバーとしてのキャリアのきっかけにしたい、少しでも福祉方面でお手伝いをしたいという思いなどから原稿執筆に協力することがあるようです。
映画祭のような分野では、無償ボランティアで原稿執筆をすることもあり、こうした依頼がNPO経由で回ってくることも少なくありません。また、地方自治体で催すバリアフリー上映会で、制作について学びながらガイド原稿執筆を同時に進めるというケースもあります。
原稿執筆の最低限のノウハウを学ぶことができる代わりに原稿執筆にかかる労力を無償で提供するという具合ですね。
最後に、弊社のような、音声ガイドを専門で制作している制作会社に登録して、そこから発注されるという形態。制作会社に登録しているディスクライバーは、前述のように背景もキャリアも様々ですが、映画の字幕や吹き替え版の制作を手掛けていたり、映画やドラマの脚本を書いていたりする方が多い傾向にあります。「音声ガイド トライアル」というキーワードで検索してみると結構出てきます。
もちろん、NPOや団体にも、翻訳者や脚本家のような言葉を生業としている方は多くいらっしゃるでしょう。しかし、やはり普段から言葉を扱うプロとして仕事をしている方が音声ガイドディスクライバーという仕事を第2、第3のキャリアとして選び、且つ収入源にするということになると、やはり制作会社に登録することが多くなるのではないかと思われます。
ディスクライバーになるには?
”ディスクライバーの仕事をしたいのですが、どうすればなれますか?”という質問をいただくことがよくありますので、その話もしておきます。
音声ガイドディスクライバーとして制作の仕事に就きたい場合、大きく分けて2通りの方法が考えられます。
- NPOなどの講座を受けたのち、無償ボランティアなどをこなしながら、優勝の仕事を紹介される機会を待つ
- 制作会社のトライアルを受けて登録、仕事の機会を待つ
NPOなどでは養成講座、制作会社ではトライアルが入り口となっているケースがよく見られます。インターネットで、「音声ガイド トライアル」などのキーワードで検索してみるといいでしょう。
なおスタジオカナーレでもディスクライバーを募集しています。以下のページで応募要項をよく読み、専用フォームから申請してください。
ディスクライバーに求められるスキルは?
音声ガイドディスクライバーというのは、映画やドラマなどの映像コンテンツを細部に至るまでまるごと解釈して、それを言葉だけで描写(説明)するという仕事ですから、並大抵の作品解釈力や日本語力では通用しません。映画好きだから向いているという単純な話でもありませんし、脚本執筆経験があれば優れたディスクライバーになれるということでもありません。
現に、テレビ番組などで脚本を手掛けた方がついでに(かどうかは分かりませんが)音声ガイドを書いたという話もたまに聞きますが、実際に聴いてみると、いわゆる音声ガイドとは程遠いものということもままあります。
スタジオカナーレでは、ディスクライバーに求めるスキルを以下の5つに定義しています。
- 作品解釈力…コンテンツの内容を正しく読み取る力
- 想像力…制作者、聴き手の意図や気持ちを汲み取る力
- 語彙・表現力…解釈した事柄を豊かな日本語で表現する力
- 調査力…情報を正確に調べる力
- 技術力…スタジオ収録などの技術情報にも精通する力(知識)
上記定義のほかに、ディスクライバー志望者に私がいつもしているアドバイスを次回アップします。
今回は以上です。では。
スタジオカナーレ代表 浅野一郎
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