音声ガイドの歴史
映像バリアフリーとは
音声ガイドは視覚障害者を対象にした、映像バリアフリーの一手段です。
視覚で情報を得ることが難しい方、見えない・見えづらい人のために、映画やドラマ、アニメなどの映像コンテンツの内容を言葉で説明するものです。具体的には、本サイトの「音声ガイドとは」で説明していますので、ご覧いただければと思います。
さて、前回の記事で、映像バリアフリーとは“異なるコミュニケーション手段を持つ人と人の間の(コミュニケーションの)バリアを取り除くこと”と書きました。
今回は、最初にこのことについて少し掘り下げたいと思います。
その前に一つお断りを。私は「視覚障害者」という言を基本的に使いません。とはいえ便宜的に使うことがあるので本サイトやブログの中でもたまに見かけることもあるかと思います。
しかし、昨今、映像コンテンツを視聴するのに音声ガイドを利用したいと思っている人は、厚生労働省から障害者手帳を発給されている方だけとは限りません。相当画面に近づかないと見えないくらい目が悪いという方も、高齢になって見えづらいという方もたくさんいるからです。
諸説ありますが、“見えづらい”という方も含めた視覚障害者の数は160万人にのぼるという数字もあります。そのような次第で、私は“見えない・見えづらい”というワードチョイスをしています。
さて話を戻します。まず“異なるコミュニケーション手段”について。晴眼者(見える人)が映像コンテンツを理解するときに使うのは視覚と聴覚。つまり、映像(および映像制作者)とのコミュニケーションを目と耳ではかっています。対して、見えない・見えづらい方たちが映像コンテンツを理解しようとする際に情報を得るのは、主に聴覚のみ。音(セリフや効果音、音楽など)だけで映像の内容を理解しなければならないのです。晴眼者が視覚と聴覚を使うのに対して、見えない・見えづらい人は聴覚のみ。コミュニケーション手段としての「視覚」という手段がないので音声ガイドによって補完することで、両者のコミュニケーションを成立させるというわけです。
音声ガイドの黎明期
次に、音声ガイドの成り立ちについて話しましょう。
映像バリアフリーの分野で代表的なのが「シティ・ライツ」。2001年に平塚千穂子さんという方起ち上げた団体です。現在は東京都、北区田端に、シネマ・チュプキ・タバタ(CINEMA Chupki TABATA)という映画館をつくり、障がいがある人もない人もいつでも映画を一緒に楽しむことのできる空間を提供しています。
>>シネマ・チュプキ・タバタ http://chupki.jpn.org/
平塚さんがシティ・ライツを起ち上げた当初は、音声ガイドはウィスパリング(視覚障害者の隣で、ひそひそ映画の内容を伝える)だったそうです。その後、MD録音した音源を共有したり、ゴム製の筒を口に当てて話したりするなどして試行錯誤を繰り返した結果、いまだに主流のひとつとなっているFM波で音声を飛ばしラジオで聞くという伝達方法を確立したとのこと。私も何度か参加したことがありますが、ガイドを希望する方は自前でラジオを持ってくるか、映画館の入り口に設けた受付でラジオを借り、音声ガイドが流れる周波数にセット。映画上映中は一方の耳でイヤホンから音声ガイド、もう一方の耳で映画の音を聞くという具合で映画を楽しみます。
UD Castアプリの誕生
そして時は流れ、現在。FMラジオはスマートフォン(スマホ)に姿を変えました。音声ガイドを必要とする人は、あらかじめUD Castというアプリケーションをインストール。当該映画がUD Cast対応であれば、登録されている音声ガイドデータを事前にダウンロード、映画館に着いたらアプリを起ち上げるだけで、映画の音に紐づいて適切なタイミングで音声ガイドが流れてくるという仕組み。
こちらは映画製作者連盟(いわゆる、日本の映画製作会社Big4(東映、東宝、松竹、角川)で構成される連盟)が正式にステータスを発表していますが、今後彼らが製作・配給する映画はできるだけ多くバリアフリー化していき、UD Castでの配信をしていくそうです。
制作費が若干高額なのが少々ネックではありますが、文化庁が日本芸術文化振興会を通しておこなっている助成金(字幕・ガイド、それぞれ100万円を上限に交付)を利用して、個人で映画を制作している監督でも徐々に浸透してきています。
もともと映画館の情報アクセシビリティ確保というのは、設備導入費の高い壁に阻まれなかなか進みませんでした。
しかし、こうしたアプリのおかげで、映画館側の設備投資が基本ゼロに抑えられるようになり、松竹マルチプレックスシアターズやTOHOシネマズのような大手シネマコンプレックスでも、UD Castアプリ対応映画であれば、いつでも音声ガイドを聴くことができる状況になってきました。
UD Cast対応映画作品はこちらで確認することができます
舞台にも音声ガイドが!
映画館以外にも、舞台に音声ガイドを付ける試みも徐々に始まっています。
こちらの劇団では、音声ガイドを客席ウラの上映室からラジオ送信しているのですが、なんと音声ガイドを読んでいるナレーターさんは、舞台の進行に合わせてライブで原稿を読んでいく(ライブガイド)という、素人が考えるとなんとも胃の痛くなるような手法を採用していますす。
そのほか、公演が始まる前に音声ガイドを必要としているお客様を舞台に上げて、衣装やセットに触ってもらい物語の世界を体感してもらうという非常に面白い試みもしています。
18年近く前に始まった、ごく一部の方の血のにじむような努力と情熱が、テクノロジーなどの力を借りて現在の形を作っているのですね。胸が熱くなります。
先人たちの作ってくれた道をさらに広げるため、弊社のような音声ガイド制作を専門でおこなう制作会社として、皆さんに楽しんでいただくことができる良い音声ガイドを作っていきたいと思います。
今回は以上です。では。
スタジオカナーレ代表 浅野一郎
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